心和のラノベ感想

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掟上今日子の家計簿 感想

掟上今日子の家計簿 2016.8

 

今回は、忘却探偵シリーズ7巻です。

雑誌掲載2本と書き下ろし2本の短編集。相棒はそれぞれ男性警部。タイトルの家計簿らしさはなし…?

感想

掟上今日子の誰がために(クイボノ)〜

吹雪の山荘というクローズド・サークルで起きた殺人事件の話。隔離された場所での殺人は逆に容疑者が絞られるという点で、起こすメリットは少なそうだが…。

クイボノというのは、推理小説用語のようでその殺人による利益を考える事らしい。その線で行くと、殺人が発生した事で無用な滞在を強いられることになった状況は、ほとんどの宿泊客や宿の主人にとって傍迷惑な話であり、容疑から外し易いという事になる。まー、巻き込まれた側は警察に宿泊料金を払って欲しい所ですよね…。

真相は、ペンションのライバル企業ということもなく、ただ延泊したいが為の殺人でした。それもまぁ、自殺願望のカップルが天候が良くなるのを待つ為に縁もゆかりも怨恨も無い会ったばかりの赤の他人を殺害したというのだから、殺意の天秤とはかくも恐ろしと思わされる。このケースも偶発的な殺意と言える。

掟上今日子叙述トリック

この話は本の構成上、次の話の伏線みたいな立ち位置にあったように思います。事件の解明は二の次で、叙述トリックのパターン14種類を今日子さんが説明する回。説明しながら1000ページの本を読むというマルチタスクの離れ業も。

叙述トリックとは推理小説にしか出来ない手法であるとは、確かにその通りで情報量が少ない文字のみの小説だからこそ成立し得る概念。勿論アンフェアではあるんだけれど、誘導されたとは言え、何故その思考に思い至らなかったかという自責もあって、何とも気持ちの良い読後感になるのも事実。流石に、実は魔法が使える世界観でしたー!と最後に明かされるパターンというのは、作者の悪戯が過ぎるとは思いますが笑。

一応、XYZの悲劇という作中本のタイトルから暗号を座標に見立てての解決編もあったものの、犯人始め動機とかその他は全てカット。まぁ、事件の概要とか登場人物の紹介にページが割かれてなかったから、今回はその辺りは全て蛇足だったので良いけど斬新ではありました。

電子書籍じゃなくて、二段組のオリジナルの本を用いないと解けない暗号というのも、中々に意地悪な作りではありますね。そこは、忘却探偵に理があるとも言える。

掟上今日子の心理実験〜

早速の叙述トリック!素直にやられたーと思いました。

素封家一家が離れに、手が付けられなくなった次男を、監禁もとい隔離していて(カード式のオートロック!)、家族3人が扉を破って押し入ったら、串刺しの死体を見つけたというもの。オートロックとは言えカードは室内にあって、ある意味密室殺人。

この事件のオチは、その次男が赤ん坊だったということ。となると急に事件の内容がただの育児放棄に成り下がるんですよねぇ。面白かったです。被害者の名前もまた成人男性っぽいし…笑(横村銃児)。まぁ、叙述トリックの為に相棒役の警部が不審人物みたいになっちゃうのは仕方ないかな…。

システムロックというと玖渚を思い出してしまう。

掟上今日子の筆跡鑑定〜

最近流行りの脱出ゲームが取り込まれた話。平均クリア時間2hのゲームに参加していたというアリバイ崩しに、忘却探偵が参加すると。ネタバレの心配がないという点も適任。

遊左下警部が待ち合わせに今日子さんより先に着いた事が最速の探偵にとってはタブーだったようで、ネチネチ小言を挟んでくるのが面白かったです。

今日子さんは結局1hのタイムアタックにほぼ成功する訳という適応力の高さを見せてました。まぁ、アリバイとしては脱出ゲーム用のアプリが、時間を測る為にクリア時間は関係なかったらしく。

というのも、犯人は替え玉を行なっていたというオチだったから。スマホに残った謎解きに必要な特徴的なフリック操作の指紋が他人の者と分かっての解決でした。

今回のbest words

いいなあ、お金持ち。お金持ち、いいなあ。いいなあ、いいなあ、いいなあ (p.174 掟上今日子)

あとがき

脱出ゲームは解かせるものであって、推理小説は読者に解かせられないことが作者の手腕みたいな事があって難易度が高くなるというのは、そうかも知れません。

筆者あとがきは、殺人事件を扱う小説について。フィクションなんだから大いに人を殺して貰って良いと思いますけどね。寧ろフィクションだからこそ現実で出来ない事をやって欲しい。現実から逸れ過ぎるのもアレですが、そこは線引きが難しいですね。