心和のラノベ感想

1ヶ月15冊読了目標!

WORLD END ECONOMiCA Ⅲ 感想

WORLD END ECONOMiCA


今回は、ワールドエンドエコノミカ3巻です。

また4年後?ハガナを見つけられてない??ということで戸惑いから始まったものの、やっぱり面白かったです。不動産バブルがメインの話題で、月面という設定もかなり生きた展開になったなぁと思いました。

あらすじ

アバロンの不正を暴くことの成功から4年の月日が流れていた。ハルは、8年前の障害から完治し、エレノアの事務所を引き継いで運営すると共に、月面の英雄と崇められ、低所得者向けの住宅支援プロジェクトを進めていた。

それぞれ環境が変わる中で、クリスはトントン拍子で大手商業銀行に入り、通称ABSという資産担保証券を大量に売り出すことで、出世を果たしていた。そのABSは保険と組み合わせる事で、実質ノーリスクでハイリターンを生み出すという言わば聖杯であり、ハルは怪訝に思いながらも裏付けを取っていき、自身の投資思考や方法の埒外であったものの、次第に諦めと共にABSを信用していく。

しかし、データを収集していく内に、月面の不動産の価値があまりにも現状と乖離していることに気づき、ハルは保険の方に全掛けへと方針を転換。そのタイミングで、月面での長きに亘る生活が及ぼす健康被害のレポートが公表されたことで、バブルが弾け、ハルは大儲けすることに成功する。

夢へとかなり前進したハルだったが、そこでバートンから連絡が入り非情な取引を持ち掛けてくるのだった。

感想

バートンがずっとハルの1歩2歩先を行くので強過ぎでしたね笑。490頁辺りでようやくハガナがお目見えするんですが、それはバートンが地球から連れて来たからだったし、しかも大儲けしたハルの金と引き換えに、ハガナを自由にするとか狂気の沙汰…。

300億ムールとか400億ムールとか言ってたので、円にすると3-4兆ってことになるんでしょうか。で、しかもこの時のハガナはハルと初対面モードの如く素っ気ないというのがまたハルが可哀想でしたね。

まぁ、ハガナはハルのアバロン打倒の映画を観て、エレノアと付き合っていると勘違いしたからこそのツンだったようで、誤解が解けた後のハガナは可愛かったです。因みに、ハガナの本名はアンナ・ハーグらしいですが、逆から読んだらハガナに聞こえる的なやつ?

月面に良い思い出が無いとして月面を葬り去ろうというハガナと、葬り去る一歩手前までいって巨大企業を乗っ取ろうとするバートンの利害が一致したことで、かなり終盤は月面がガタガタになりましたが、バートンのやろうとしていたことは、一極集中の解除みたいなことだったっぽいので、やはり完全な悪人でもなかったのかなとも思います。

序盤ではウハウハで絶好調な月面で、何もかもが上手く回り、一度も地価が下がらない状況で、肩身を狭くする悲観の帝王ウォルスがんばれーという感じで読んでいました。また、結構複雑な金融工学が出ていて難しめでした。証券で得た資金をまた証券に変えて売る的な? それから、空売りの立場や難しさも学べました。

まぁそれが後半になって効いてくる訳ですが、流石に将来土地の価格が必ず上がるからと言って、無職の人に住宅ローンを組むのは楽観が過ぎるって話ですよね。本文中で、上手い話は存在するがそういうものはすぐに旨い蜜が吸われて破綻するというのはその通りだなと。月面の生活の危険性を報じたレポートも、土地価格の暴落を後押しした面もありますが、また人々の悲観の怖さというのも感じました。

というのも、ABSが立ち行かなくなった時に、払い戻しや売りが殺到して、銀行が破綻しかけて、それがドミノのように続き、果ては質素に暮らしていた人にまで影響が出てしまうと。大量に紙幣を刷ろうにもインフレを招いたり、政府は金融だけ優遇するのかという話になって二進も三進もいかなくなる。

最終的には、月に住みたい人が少なからずいるであろうという目論見から、税金を導入することで何とかなったっぽいですが、この騒ぎが人々の楽観もありますが、ほとんどハガナとバートンの2人によって引き起こされたというのがまた恐ろしいですね笑。

にしても、これはフィクションではありますが、現実ではこれ以上の事が起きてるってのは本当なんでしょうか…。

各キャラクターについてですが、クリスが効率を極め過ぎて遠い存在になってしまった感じがして少し寂しかったです。勿論大出世をしたばかりかABSの件で、最後は損失が出ないように保険まで買っていたという周到さは素晴らしいんですが。でもこれ世間から叩かれないっすかね…。

エレノアに関しては、地球に戻ってのんびりしているみたいです。ハルが地球に少し足を運んだ際に再会するんですが、ハルのハガナ好き+投資狂の様子を見て、また客観的に一歩引く決意が出来たようで。

敏腕弁護士のサティアはもう少し生かせそうな設定ありそうでしたが、出番は大人しめでした。容姿は、バリバリの太ったおばさんなんで…。事がどっちに進もうが仕事があるというのは、ある意味狡く見えるかも。

リサは、全体を通してずっと"リサらしい"という表現が使われていたので、みんなにとっての居場所を作っていたのもそうですが、本当に縁の下の力持ちの安定した活躍だったなと思います。

この作品の良さは、しっかりとした設定と濃い人間ドラマに加えて、比喩表現の的確さもありますし、一度出て来た場面に似た場面が出て来た時にしっかり、前の教訓を生かしている所かなと思いますね。

今回のbest words

こ、こんにちヴぇっ (p.150 マルコ)

あとがき

1巻800ページ、2巻660ページ、3巻800ページということで、もっと分冊にしてくれーと思っていましたが、読んでみると意味のある区切りをしてたんだなーと分かりますね。それは、4年毎の期間もそうですし、主人公ハルのパートナーがハガナ→クリス、エレノア→マルコとなるのもそうですし、取り扱う金額や出来事に対しての核心への近さというのもそう。思い返すと最初は投資コンペですもんね笑。

こんなに分厚かったのに、意外と最後は月の行く末は読者の想像に任せるって感じで、住宅支援プロジェクトどうなるねーんって感じもしましたが…。

ただ、個人的には今まで読んだ作品の中で十指に入る面白さだと思いましたし、これが数千円で読めるのはお得だなと感じました笑。

「知らないことには手を出すな。知れることは可能な限り知れ。」