心和のラノベ感想

1ヶ月15冊読了目標!

塩の街 感想

塩の街


今回は、塩の街です。

2004年の電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作。有川浩さんと言えば、読んだことはないですが図書館戦争で有名な方で、今作以降はハードカバーの出版になっているみたいで。それから、空の中・海の底と並んで自衛隊三部作なんて呼ばれているらしい。

終始重めな展開ながらも、ためになる言葉が多く出てくるのと、これは愛の話なんだなぁと。世界と好きな人のどっちを取るのかという。

感想

〜Scene-1〜

大きな荷物を背負って群馬から東京までやって来た男(谷田部遼一)を(小笠原)真奈が助けて、秋庭の元へ案内し、綺麗な海に行きたいという遼一の願いを叶える話。

一見すると、遼一が主人公なのかと勘違いしてしまうのですが、今作の主人公は真奈と秋庭の2人。寧ろ作者が女性だからか真奈視点が多い。

塩害の余波が残る東京で、女子高生の真奈と一回りくらい?年齢の離れた男の秋庭の関係や、塩害が何かも分からない上で物語は進む中で、遼一の目的が塩害の影響で塩の彫刻と化してしまった彼女を海へ還すことだと分かる。そして、おそらく遼一自身も塩害の影響があって、彼女と共に死んでいこうとしているんだろうな、と。

この話で重要な点は、塩害が必ずしもマイナスにだけ働いた訳ではないということで。遼一の彼女には彼氏がいたけれど、塩害に罹った彼女はそこで一緒にいたいのが遼一だと気付いたらしく。関係ないのに泣いてごめんなさいという真奈の優しさが切ない。

"景色は美しくあろうとして美しいわけではない"というのは、自分のためというのが根幹にあるというか何というか。

〜Scene-2〜

帰路の途中で、脱獄囚(トモヤ)に脅迫される話。ここでも、塩害周りのことはベールに包まれたまま、塩害の被害者が描かれていました。トモヤの昔の好きだった人に素直に接することの出来なかったエピソードが何とも甘酸っぱい。割と真奈と秋庭の関係性の分岐点となる話でもあったかな。

ルールは自分を守るためにあるというのは、目から鱗かもなぁ。世界は綺麗なものだけで出来ていない。

〜Scene-3〜

塩害の情報が少しずつ明らかになってきます。と言っても、最後まで読んでも結局のところ塩害の発生原因とか、伝染するのかとか、何でそんなに一気に人が死んだの?というのは分からなかった訳ですが。

とりあえず、白い隕石の落下後に関東圏の人口が3分の1になったらしい。真奈の両親はその日以降行方知らずで、前の2件を経て真奈は秋庭と共に真奈の実家に帰ると。向かう車中で、秋庭は真奈に歌を歌わせるシーンがありますが、真奈に思い煩いさせないようにしてたと考えると秋庭の優しさに泣ける。

近所の夫人がクズ過ぎる…。塩害で無秩序と化した混沌の中で、1人で生きる女子の危険さは想像に易い中で、秋庭が真奈の危機を救ったと。何か大地震でコンビニの物が盗まれる光景を思い出してしまう…。

〜Scene-4〜

秋庭の友人の入江慎吾が来訪し、テロの相談をされる話。この辺りから2人の恋愛色が強くなった印象。秋庭が元空自のプロであったことや、塩害が塩の結晶を見ることで発症するという事が分かってくる。生き物っていう話は眉唾な気もしますが…。

ここから、入江の脅迫じみた提案により、2人は基地での生活に移行。

〜Scene-5〜

入江との会合などで中々秋庭に会えなくなった真奈が、基地内の清掃にかって出る中で入江が塩害の人体実験をしていることを見つけてしまうのと、秋庭がパイロットとして塩害阻止の一環で米軍基地襲撃作戦の参加を耳にしてしまう話。

受刑者を使って、塩の結晶を見させ続けたら塩害を発症するのか人体実験をするというのは、非人道的である一方で、ある意味では効率的な考えかなと思ったり。トモヤもその被害者だった訳ですが、トモヤと出会っていなければ情も芽生えたりはしなかったと。知ってしまったからには当事者になってしまう。どこかでフィルターをかけた方が、幸せに生きられるのかも知れません、気持ちの上では。

〜Scene-6〜

明日や世界のことよりも、秋庭がいる方が大事だと真奈は訴える一方で、先に死なれたら困ると撥ね返される。女を語る入江が面白い。

出撃した秋庭に対して、結晶の部屋に入ることで、秋庭生きて帰って来る要因を作り出す真奈の度胸が凄い。

〜Scene-7〜

あとは秋庭が無事に戻って来られるか否かって話でしたが、入江が前もって米軍に話を付けていたこともあって、無事に帰還してめでたしめでたし。

何の力もない真奈は、秋庭にとって軽い荷物であろうと足掻きますが、秋庭が帰って来られるように重い荷物になろうとする姿は良かったです。逆転の発想。

今回のbest words

来なくていいです、明日なんか__秋庭さんが行っちゃうんなら、そんなもの要らない!あたし、世界なんかこのままでいいもの! (p.235 小笠原真奈)

あとがき

イリヤの空、UFOの夏に近い作品と言えるのかなぁ。世界よりも大切な人を選択する強さには憧れますね。

塩害の世界観の説明が少なかったのが少し残念ではありましたが、その分2人の愛の結晶が見られたのは良かったと思います。

"誰かのためというのは、本当は自分のため"という言葉が印象的でした。一面だけで判断してはいけないというのも。今回たまたまトモヤも真奈に牙を向く形となったものの、一人の恋に悩む青年でしかなく、塩害が無ければまともに罪を償っていたのかも知れないし、入江も悪人に見えて世界の為に行動しているとも言えるし、秋庭にしたって危地に赴くのは世界のためではなく、真奈のためで。案外、真奈に先に死なれたら困るというのが本音なのかもなーと。人に優しくする時に怒りっぽくなるのもありましたし。

塩害によって絶たれた縁もあるし、結ばれた縁もあって。人も物事も多面的に見て考えないとなーと思いました。