
今回は、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』です。
タイトルは偶に聞いていて全くの前提知識無しで読み始めましたが、一言で語るのは難しい作品ですねぇ…。取り敢えず、電波少女との百合かと思えば重めなバイオレンスで胸糞案件だった()
とは言え、読後感に爪痕を残すものもありました。それと、この物語を通して成長や変化をしたのは誰だったのだろう?とか考えます。世の中甘くはないよという事であり、悲劇のヒロインぶった所で下には下があるという感じかなぁ。
あらすじ
海野藻屑という芸能人の海野雅愛を父に持つ少女が転入して来た。
「どんなにか人間が愚かか、生きる価値がないか、みんな死んじゃえばいいか、教えて下さい。ではよろしくお願いします。ぺこり」
藻屑に目を付けられた山田なぎさは、藻屑と行動を共にする内に友達になった気でいたが、自身の境遇を上回る藻屑のこれまでを知る事になるのだった。
感想
素敵なタイトルだな〜と思います。
けれども、この物語は綺麗な話では決してなく、寧ろ惨たらしい事が平然と行われていました。
文中でも、実弾といった言葉や砂糖菓子の弾丸という言葉が使用されていて、それが際立っていました。
実弾とは、意味のある言動とか実生活に直結するような事で、逆に砂糖菓子の弾丸は、空虚な子供騙しな言動、的な意味合いと思われます。
甘ったるい弾丸を撃ち続けた藻屑はバラバラとなり、神の視点を持ったかのようなその実ただの引きこもり貴族だった兄の友彦は最後は社会復帰を果たす。
自衛隊に入ったから文字通り実弾を撃っているというのが面白い所ですが、この世界は実利となるものは切り捨てられるという事を暗に示しているような気もします。
そういう意味では、この物語で1番変化があったのは友彦だったんじゃないかとも思います。まぁ、周りが甘やかすからというのは的を射ていたんでしょう。
逆説的には、甘ったるい弾丸を撃つ=その人からのSOSという捉え方も出来るかも知れません。それを無視するのが大人というのもまた違うのかなーとか、砂糖菓子の弾丸でも生きていて良い世の中が認められても良いのでは?とか。
さておき、今作のメインは海野藻屑です。
海野雅愛という芸能人を父に持つ美少女でありながら、自分は人魚だと曰い、スカートの下に覗く痣を汚染だと説明し、常にペットボトルのミネラルウォーターを持ち、それを口の端から滴らせながらがぶ飲みする姿が印象的な風変わりな少女。
電波系少女だ!という要素を遺憾なく見せつける藻屑でしたが、徐々に風向きが変わっていきます。
そもそも、娘に藻屑って名付ける親がどこにいるんだ、というのをフックとして、そのおかしな言動が父の暴虐故では無いかという疑いが出て来ます。
ストックホルム症候群という言葉は、聞いた事こそあれ意味はそこまで知らなかったのですが、誘拐された側が誘拐犯と長く一緒に過ごす事で、誘拐犯を擁護し出すといった現象の事らしい。好きって絶望だよね。
これが正に藻屑に当て嵌まっていました。現実から目を逸らし、妄想に浸る事でしか自分を守る事が出来なかったのだろうと思うと、同情心すら芽生えてきます。
しかも、親の暴力が原因?で足を悪くしていて、左の鼓膜が破れているという事実まで明かされていく。
そんな藻屑が興味を持ったのが山田なぎさであり、フルネームで呼んできたりペットボトルを投げつけてきたりするのが面白かったです。
ただまぁ、花名島を絡めた恋愛感情には無頓着で、なぎさが飼育係で飼育していた兎を虐殺したのは藻屑なんだろうなぁ…。気を引く為にっていうのがストレートに正解かな。
さっきバラバラ死体とスッと書きましたけど、今作は多少の時系列の組み込みがあり、バッドエンドは確定してました…。破滅への外堀を埋めていく時間でもあり、なぎさの後悔の足跡だったのかも知れない。
そんな猟奇的な殺人を犬に続いて娘にまで手を掛けた海野雅愛ですが、この男の視点はなく、暴力含め何が彼をそう掻き立てたのかは不明でした。不明だからこそ怖さが増す感じもありますけど…。
藻屑も藻屑で、魔法のような言動や予言をするので、少しファンタジーなのか?とも思いながら、普通に辛い現実の話でした。マジックのタネはサイコロジカル・ミスディレクションだという友彦の話は割と腑に落ちました笑。
奇書的な要素はあるけども、どこまで行っても現実の地続きだからどうなんだろうね。
そういや、未亡人の奥さんが夫の同僚と良い雰囲気になって、自分の子供を殺すのは何故かというクイズの答えが、"逢いたくて"というのが理解難しい…。いや、理解出来ちゃまずいクイズらしいけども。
今回のbest words
鉈、サンキュ。山田なぎさ (p.64 海野藻屑)
→どんな心境で言ってるんだよ…。凶器それだよ?
あとがき
本編も筆者あとがきも共通して、残念美人を描きたかったのかなぁと思います。その絶妙な宝の持ち腐れ感が不思議な存在感を生むというか。
それで言うと、海野藻屑は芸能人を親に持ち、美人として生まれながら、心が壊れるまでの劣悪な家庭環境で育ったという事で、残念美人の極致にあったと言える。
この歪んだ小説が編集に渡され刊行までされたというのが今思うと嬉しい。