サクチシノニエ 異端の儀式 感想 ★★★★

2025.8

今回は、サクチシノニエです。

田舎、猟奇殺人、祟りというと、ひぐらしのなく頃にを彷彿させますが、最後まで読み終えると、電波彼女との純愛とも思えてしまう読み口となるのが不思議な感覚でした。

こういう現実離れしたサイコホラーテイストな物語は、怖いもの見たさが先行して、猟奇殺人がもっと起こって!と思ってしまうのが面白い所ですね…。

あらすじ

小学生5年生以前の記憶が曖昧な川上縫は、親を亡くし引き取られた伯父夫婦も他界し、父の旧友だった大石さんを頼って、茨城県の佐口澌村にあるファミリーホームに身を寄せる事となった。

そこには同じ高校2年で小学校ではクラスメイトだった水谷緒途がいて、ブルメナという同じ睡眠薬を服用する者同士としても意気投合する。一方、縫の夢の中に頻繁に登場していた椎田芽璃との出会いがあり、村での連続変死体事件の話を知る事となる。

感想

小学生の頃に父に連れられて訪れた佐口澌村で、山に迷い込んだ縫が芽璃と出会い、それが最終的に愛し合う2人になっていく、とそれだけ見れば一夏の素敵な物語なのですが、そこに至るまでの血腥さが壮絶でした。

猟奇的な連続殺人については、1つ目がバラバラな年齢の4人の男達が挙って溜まり池に入水して、死亡したというもの。さらに悍ましいのが、蝋化現象を引き起こし、一部遺体が繋がっていたという…。

2つ目は、臓物を食いちぎられた遺体と、その近くに腹を破裂させて死亡した遺体があったというもので、その腹の中には被害者の臓物があったという。

3つ目は、凌遅のように自身の肉を刮げながら山道を行軍したという自殺だった模様。

これら事件の関連性は、旧暦8/15くらいのもので、特に1つ目と3つ目は何者かに操られなければ起きないよなぁと思わされるものでした。

さておき、縫が出会った芽璃はこれぞ電波少女!という振る舞いで良かったです。めるるるる…がクセになる笑。

背筋がゾッとしたポイント①として、縫の「ぬい」という平仮名が、子供にとっては書きづらく、「めり」と書きがちだったという話が出た時でした。

夢の中に出てきていた芽璃という少女なので、実在する人物なのか、縫が自分で作り出した妄想なのか…読んでいてそんな迷いもありました。

背筋がゾッとしたポイント②としては、縫の黒歴史ノートが見つかった瞬間でした。

これは、挿絵も含めて恐怖感に駆られたのですが、小学生時代に認めていた絵が全て猟奇殺人の様子を描いたものだったと判明する場面で。

テセウスの舟というドラマでも似たようなシーンがあった気がしますが笑、子供の描いた無邪気な絵こそ恐怖を増幅する効果があるなぁと思います。

そして、単純に何故そんな事が可能だったのかという話になります。加えて、そこには第4、第5の人の死の様子が宛ら予言のように残されていて。

これについては終盤で、前に縫が佐口澌村に来た際に芽璃と会って電波を共有した事で芽璃とどこでも交信出来るようになり、一緒に考えた殺人計画だった事が明らかになります。

この頃の縫はブツブツ独り言を言っている姿が捕捉されていて、遠隔ながら芽璃とやり取りをしていたらしい。これは、お互いに寂しさを埋める行為でもあり、芽璃にとっては縫の監視の意味合いもあったようで。

さておき、連続殺人は一緒に考えた殺人計画を芽璃がなぞっているだけという事。芽璃は実在した。

この辺りは、縫が当時の記憶が曖昧になっている設定にも関係していて、緒途と過去を探っていく中で、縫が虐めに加担したクラスメイト6人を金属バットでめった打ちにした事件が判明していく模様は面白かったです。

それでもっと根本的な所には、芽璃がサクチシサマと交信出来るというオカルト的な事情がありました。これで、本当に人を操って死なせた訳で、縫の記憶が定かでなかったりするのもこれが影響しているという。

少年院とかに行かなくて済んでいたのは僥倖だったのか否か。

まぁ、何はともあれ全て芽璃の父がクズだったのが全ての元凶だったと言えるでしょう。

妻をDVで自殺へと追い込み、元々サクチシサマとやり取りの出来た松園シノに引き取られた芽璃を甘い言葉で籠絡し、手籠にしたと。

実は最初の変死事件の被害者の1人が芽璃の父であり、復讐は既に済んでいたという。逆に、それ以降の猟奇殺人は快楽的な事情が大きくて、被害者が可哀想な面もありますが…笑。

4番目は過剰に走らされた上で弁慶の立ち往生のような形での心中、5番目は花畑のような場所でのバラバラ死体。よくもまぁこんな変死のバリエーションがあるものですね!

特に、大石さんは寧ろ善人だったと思うし、何か面白い録音を残した人という印象になってました笑。

終盤は結構急展開という感じで、縫が芽璃によって暗闇(ムンカン)に監禁される中で、芽璃の過去を追体験しながら、芽璃に身を任せていく様子が描かれていました。

縫の身近な人物を悉くサクチシサマの力で屠ってきた芽璃に対して、許したというよりも、憎悪を愛に置き換えているだけな感もありますが、人間の根源的な欲求には勝てないという事なのかなぁ。

芽璃の偏愛には悪意は無かっただろうし、憎悪というの違うのかもだけど。縫は流されたというような、また洗脳(宗教的?)に近い気もしますが笑、まぁ純愛という事にしておきましょう。

神の力を借りた少女が、1人の少年の為に全てを提げて、その少年の関係のあるものを引き裂いて、世界の終わりと天秤に掛けて選択を迫る…。

2人にとってのハッピーエンド?も、沢山の犠牲の上に成り立っている訳ですが、そんなの知ったっちゃない、生きづらい世界が悪いんだ!って感じかなぁ。

正直、芽璃の手を取ろうが取らまいが、世界は良くない方向に進んでいそうで最早強制な感もあるのですが…。でも、芽璃に辛い過去を思うと誰も責められないのも事実で。

今考えると、縫と緒途が佐口澌村を出て行こうとした時に引き止めた、施設にいた林檎ちゃんもまた、多少は操られていたかも知れないな…。

縫は遠隔でも繋がれる一方で、村の外に出た緒途は本当に物理的にどうこう出来なくなる可能性があったかもですし。

いや、もしかしたら芽璃の力を振るえるのはこの地だけであり、村に引き込んだこのチャンスで、縫を落としたい(堕としたい)思惑が強かったのかも知れません。

中西さんは、とにかく性行為=神聖なる男女の成れの果てだと考えている節があるような気がしました。宮澤くんとかもそうだったし。

性行為が霊力?を上げるというのもスピリチュアルな感じですよね。

今回のbest words

めるるるるはね、いい意味の時と、特に意味がない時があるよ!これがふぁるるるるになるとね、必ず悪い意味なんだよ! (p.83 芽璃)

→めるるっばんわ〜とかに派生するの面白い

あとがき

ある意味ではセカイ系的な要素もあるように感じていて、でも最後に縫が選んだのは芽璃とどこまでも堕ちていく道だったと。

最後のゾンビパニックは村の中だけに留まる現象だとは思いますが、2人はこの後どこで暮らしていくんでしょうねぇ。身籠ってもいるようだし…。

余談ですが、〜なんだろうとか、〜みたいだったとか推量で文章が紡がれているので、より没入しやすいのかな〜と感じました。