転生程度で胸の穴は埋まらない 感想 ★★★★★

2025.1

今回は、転生程度で胸の穴は埋まらないです。

あまり転生ファンタジーものを読まない自分にとっては新鮮で面白かったです。何より、コノエとテルネリカの心温まる物語がとても良かったです!

あらすじ

コノエは誰に看取られる事なく病室で死亡したが、気付くと異世界に転生していた。そのコミュ障からまた仲間を作れずにいると、教官から生命魔法の加護を取得する事を勧められ、甘言に絆されアデプトと呼ばれる一番上の階級を目指す事に。

転生者とは言え特別な才のなかったコノエは、死に物狂いで、時には神様の激励を受けながら、遂にアデプトへと到達する。転生から25年の月日が流れていた。ようやくアデプトとして歩みを始めたコノエは、死病に冒されるエルフの少女テルネリカに出会うのだった。

感想

超良い話!これは人にオススメしたくなる面白さでした。お金よりも隣にいてくれる存在のありがたさ。狼と香辛料のホロとロレンスのような。尊い

まずコノエというキャラクターですが、真面目が取り柄で基本的にコミュ障。とは言え、人肌を知らないからこそ、惚れ薬ハーレムを形成出来ると言われ、最難関のアデプトになる事を決意するような人間味もあって良かったです。

そんなアデプトになるまで、まさかの25年。流石に失笑レベルなんですが、生命魔法のお陰で容姿を若く保たせているというのは、よく出来た設定ですね。

そしていざ船出!という所で、助けを求める人々の多さに愕然とする。9000人近いアデプトの仲間入りを果たしたコノエでしたが、要は極端にアデプト不足な訳です。

異世界らしく、色々と設定が小出しに分かっていくのも面白いのですが、この世界は邪神によるダンジョン発生と、そこの核から生じる瘴気による死病が蔓延しているらしい。

さらに、ダンジョンは広く中々攻略が進んでいないという事で、圧倒的に人類(魔族系以外)が弱者の立ち位置っぽい。と言っても、結界魔法等で抗ったりもしているようですが。

アデプトとなったコノエは、色んな事が出来るようになっていて、戦闘でも治癒要因としても一財を築ける状態な所で、最初に死病に冒された少女テルネリカの自分より街を優先する姿を見て、金千両で仕事を引き受ける事に。ある意味、既に俺TUEEEEに入りかけてる。

何より良かったのが、コノエがテルネリカへの存在感を日々強めていく過程でした。あれ、何でこの子メイド服(後でせんかたなき理由が判明する)で、四六時中側にいるんだ??って気付くシーンは面白い。

さらに、俺の事は良いから自分のやりたい事に時間を当てろと言った後も、その行動を変えないのが可愛かったです。あ、この子コノエの側にいるのが幸せなんだ!って読者は気付くのに、??って反応なコノエの鈍感さもまた良き。

街を取り敢えずは救って、結界が張られるまでの見張りの日々で、少し長い椅子に座ってお茶を飲み、凭れかかってきて感じる体温、この穏やかな時間がたまらない。

テルネリカは貴族の娘でありながら、コノエとの初対面でもそうだし、地に埋まっているかも知れない聖花の種を住人達と泥んこになりながらも探すような、一貫して献身的な行動を取っていたのも尊かったです。

というか、目が合うと少し傾いて笑顔になるの可愛い過ぎるー!誓いの言葉も尊い(幼きテルネリカと母のメロブの特典SSも良き…)。

また、テルネリカの加護や家族について、尋ねられながらも敢えてひた隠しにした理由が最後に分かる展開も説得力があって、ストレスなく読めました。

こういうストーリー展開にしたいから、キャラクター設定をこうしようではなく、キャラクターの設定がまずあって、こういう事態になった時こう動くよねという積み重ねが、物語を作っていくという流れがやはり感情移入しやすいのかなと。

最後に分かっていく情報としては、テルネリカの家族のいるシルメニアの街が貴族の判断で放棄された事、それに反発して街の民を守ろうとした事で財産や加護を没収された事(だからメイド服しかなかった)、両親と兄が命と引き換えに結界魔法を発動した事でした。

テルネリカの家族が立派だったからこそ、民は怠ける事なく復興に尽力してたのかと思うとジーンときます。そして、払うお金がないテルネリカは密かに激痛を伴う売体で金を捻出し、コノエに還元しようとしていたと。いや本当コノエが間に合って良かった。

このお金で屋敷を買ってねと呟くテルネリカの想いが重い。いや良い重さなんだけれど笑。でも、こんなにコノエを慕っているテルネリカを守れて安堵しかなかったです。

そしてまた、惚れ薬なんかを忘れて、テルネリカが側にいればと気持ちが変わるコノエが良いんですよ。いやまぁ、アデプトなら他の稼ぐ当てがあると言えばそうなんですけど。

因みに、テルネリカさん衝撃の35才?!でもエルフは長命種だから…。

そう言えば、不穏なタイトルだったので最後嫌な事が起きるかと冷や冷やしましたが、ハッピーエンドで良かったです。転生程度では捻くれてても、テルネリカとの出会いは確実にコノエの穴を埋めたぜ!

今回のbest words

コノエ様、知っていますか?風が強くても、寄り添っていれば温かいんですよ (p.184 テルネリカ)

あとがき

1巻でテルネリカとの関係性という意味で、綺麗に纏まった一冊だと思いましたが、神様はどういう存在なのか、世界最強と書かれる教官は何者?とか、その他ダンジョンや災厄級モンスターや、竜が使ってきたような固有魔法(オリジン)等、広げる要素はあるんですねぇ。

戦闘ではコノエの足を引っ張るであろうテルネリカが今後、どういう役回りになるのかも注目したいです。親族が居なくなった事で連れ回せるね!と思うのは流石に不謹慎ですかそうですか。にしても、これが初書籍とは凄い。2巻が出れば必ず買います!